研究活動

ヴィブラートの評価と音響学の視点から

 

「ヴァイオリンのヴィブラート音に関する研究~官能評価法を適用して~」

 

ヴァイオリンにとってヴィブラートは重要な表現技術の一つです。そこで演奏者の立場で客観的な評価を得るために、経験だけでなく一つの指標を持つことを目指してみました。
クラシック音楽の世界では殆ど例のない官能検査(味覚で使われる検査方法)を用いて、演奏者およびCDのヴィブラート音を18名のパネラーによって評価してもらいました。その結果、官能評価法はヴィブラートの評価法としてある一定の条件下に有効であることが明らかになりました。また官能評価値は聴覚および視覚とも関連性があり、ヴィブラーとの評価法として学習の助けになる可能性があることが分かりました。
聖徳大学人文学部音楽文化研究会『音楽文化研究』第2号2003 聖徳大学図書館所蔵

 

 

「ヴァイオリンのヴィブラートと音響学的特性値に関する研究」共同研究
ヴァイオリンのヴィブラート音の音圧の変化とピッチの変化(音響学的特性値)、指が弦を押さえる圧力の変化との関連、さらに官能評価値との関連、音の印象などの関連を総合的に求めてみました。
その結果、ヴァイオリンのヴィブラートそのものに多くの音の印象が含まれていることがわかりました。また、指圧を含めた音響学的特性値には、ある範囲で対応する音色があり、それらの要素が複合的にグループを形成することで、様々な音色が生み出される事が示されました。
さらに、音響学的特性値をテクニックに置き換えてみることで、ヴィブラートの技術を習得するのに役立てられる可能性が示されました。
聖徳大学人文学部音楽文化研究会『音楽文化研究』第3号2003 聖徳大学図書館所蔵

 

弦楽器を演奏するための無理のない身体の使いかたの視点から

 

「ヴァイオリン演奏時における演奏音の官能評価と身体活動筋の筋電位および脳機能の関連性」

博士課程前期修士論文 研究指導

 

プロの演奏家たちの演奏は楽々と見え難曲も易しそうに聴こえます。また、同じ楽器を演奏しても弾き手によって音色、音質に違いがあります。
そこでプロの演奏家から音楽学生9名に同じ曲を演奏してもらい、演奏中の筋肉の使い方の違いを見るために筋電位を測定しました。ヴァイオリン演奏に必要な筋肉の中で特に楽器を構えるのに関係する首(右僧帽筋)、咬みしめる力(左咬筋)、運弓に関わる右腕(右上腕三頭筋)、運指に用いる指を動かす力(左総指伸筋)の4箇所です。
録音した演奏について別の音楽学生たちに、ある一定の価値観から評価してもらいました。その評価と筋電位との関連性を分析した結果、演奏の評価と筋電位、特に首の筋肉で顕著に、評価の高い演奏家ほど殆ど筋力を使っていないという結果が示されました。
また、事象関連電位という脳認知機能に関するものを測定したところ、評価の高い演奏をした演奏家の方が演奏後に認知機能の活性化が見られ、無駄の無い筋力と評価の高い演奏、そして認知機能の活性化という一連の関連性がわかりました。
「音楽文化研究科修士論文集8金テツ」聖徳大学図書館所蔵



「アレクサンダー・テクニーク適用時の心理面とヴァイオリン演奏音の官能評価および筋電位の変化にみられる関連性」

博士課程前期修士論文 研究指導

 

心身に対して余計な緊張を取り除く一手段としてアレクサンダー・テクニーク(以下アレク)に注目し、演奏時の心理面、身体活動筋への有効性を検証することによって、負荷の少ない練習、演奏の助けとなることを目指しました。
10名のヴァイオリン演奏家や音楽学生に同じ曲を演奏してもらい、その前後で気分状態などの心理テストを、演奏中には筋電位を測定しました。
その結果、アレク適用の演奏前後と適用しない演奏前後ではアレク適用の方が緊張や不安、怒りや敵意、混乱などの気分状態が改善され、足し算の計算能力があがり、判断時間は短縮するという結果が示されました。
更にアレクは短期間の適用より、長期間に渡って適用することで音の評価「柔らかさ」や「伸びやかさ」の評価が高くなり、怒りや敵意の気分状態がより減少するという違いがみられました。
その上、首と右腕、左指の筋電位も統計的に有意に力が入らなくなったという結果が示されるなど、アレクの適用の効果と心理状態と演奏上の身体の使い方、更にそれによって演奏評価にも影響があることが分かりました。
「音楽文化研究科修士論文集8金コウキ」聖徳大学図書館所蔵



「ヴァイオリン演奏時における演奏音と身体活動筋の筋電位および脳機能の関連性」(共同研究)

 

ヴァイオリン演奏家の職業病として顎関節症、腱鞘炎、首肩腕のひどい凝りなどが知られています。 
プロの演奏家は自分の演奏した音を聞き、認知することで情感が変化し、音や情感を総合的にコントロールしながら表現すべく運動の神経にも結びつけて、自分のイメージを表現できるよう日頃から訓練している、と考えられます。
そこで、演奏時の筋電位、演奏者の気分状態、事象関連電位を測定したところ、評価が高い演奏者ほど表現に必要な右腕および左指が音によって筋電位値が高く、評価の低い人ほどかみしめる力、首の力に常時過剰な緊張がみられました。
また、脳認知指標P300潜時、気分状態の疲労、混乱、抑うつ、敵意・怒りが習熟度の判別に寄与することが示され、習熟度は高次脳、神経機能と密接に関連し、ひいては筋収縮の統合・制御にも関連することが示されました。
第7回日本音楽療法学会学術大会(2007.9.8)発表

 

弦楽器曲を用いての心理面、体調面への影響の視点から

 

「受動的および能動的ヴァイオリン曲楽音のゆらぎに関する音楽音響心理学的研究」共同研究

 

音楽音響の快適さを物理的数値として捉えるために、ヴァイオリンを中心とした弦楽器曲のしっとり系4曲と軽快な楽しい系7曲、それぞれ15分に編集した音楽で比較検討しました。楽曲それぞれの音高および音圧のゆらぎを計算し、音響の物理的指標としてゆらぎ指標を求めました。
一方、心理的な変化を捉えるためにしっとり系と楽しい系の楽曲を聞いてもらい、その楽曲から受ける感じについての感情表現調査を行いました。 ゆらぎ指標と二つの系列音楽との関連性をみたところ、しっとり系と楽しい系のそれぞれの楽曲ではっきり異なる関連性がみられました。また、音高のゆらぎよりも音圧のゆらぎの方がより感情に関連する影響が大きいことが示されました。
第4回日本音楽療法学会学術大会 発表p.129



「受動的および能動的ヴァイオリン曲楽音のゆらぎの代謝機能に及ぼす影響」共同研究
習慣生活病の予防として栄養・運動・休養の三要素が強調されています。音楽聴取も休養法の一つとして貢献できると考え、音楽の持つゆらぎが生体にどのような影響を与えるのかを検討しました。
しっとり系音楽と、楽しい系音楽をそれぞれ30分に編集し、被験者たちをしっとり系を聞くグループ、楽しい系を聞くグループ、何も聞かないグループ(対照群)の3つにわけ、音楽聴取(または30分間何も聞かない)の前後に血液検査を行いました。一方それぞれの系統の音楽を音高と音圧のゆらぎ指標で表し、2つの系統群の関連を見ました。
しっとり系および楽しい系聴取群では、興奮物質であるノルアドレナリンが聴取後有意に減少、しっとり系では更に心のバランスを整えるセロトニンが聴取後安静30分後に増加を示し、しっとり系楽音聴取では交感神経活動度が抑制されていると考えられます。これらの変化は対象郡では見られませんでした。
また、造血機能において、楽しい系としっとり系では正反対の作用があることが確認され、総じてしっとり系の方が楽しい系に比べて広い範囲で代謝に影響を及ぼすことが示されました。
今回は一時的な聴取であり影響も一時的であると考えられますが、今後長期聴取実験を実施して影響を検討し、保健用途および治療用途としての音楽を確立させていけたらと思います。
第4回日本音楽療法学会学術大会 発表p.130